高齢者 ペットと共に生きる
ペットを飼っている老人が増えています。ペットも長生きになり、自分もあとどれくらい生きれるのだろうか?ペットのこと、自分のこと。不安に思う高齢者が増えています。こういった人たちを支援活動しているNPO団体があります。NPO法人「高齢者のペット飼育支援獣医師ネットワーク」。理事長で、東京大学名誉教授の佐々木伸雄さんによるお話です。
自分の老いが不安
国内の犬と猫の合計飼育数は、ここ数年では少しづつ減っていますが、15歳未満の人口より多い状態が続いております。4世帯に1世帯が、「飼い主世帯」とも言われています。
飼い主を世代別に見てみると、犬猫とも、50代が一番多く、次に60代。70代になると大幅に減少します。自分が先立ってしまう不安や、高齢者介護施設への入居に伴い、連れていけないなど、さまざまな理由があります。
犬猫の平均寿命は少しづつ伸びており、最近ではともに15歳前後と言われています。人間だと〝100歳越え” と言われる20歳前後まで生きる犬や猫も増えてきています。ペットの長寿は飼い主の願いでもありますが、自分が70代にもなると、飼うのを躊躇するケースが少なくありません。
ペットを飼う場合、食事や散歩、病気への対応など、責任を負う必要がでてきます。しかし、一旦生活をともにしはじめると、癒される、楽しい、人と交流しやすいなど、沢山の人が魅力を感じていることでしょう。実際に、ペットの癒し効果は科学的にも証明されつつあるのです。
また、核家族化に伴い、子供が自立したあとは、「ペットが生きがい」という夫婦も増えてきています。一人暮らしの高齢者の中には、ペットの世話が日々の日課となり、生活に張り合いが生まれる人もいます。ペットは、夫婦円満、そして健康長寿への役割も担っていると考えられます。
獣医療を自宅でも
高齢者が安心してペットを飼い続けることで、飼い主の健康促進や社会との交流を促進できるよう、佐々木さんのNPO団体は、「高齢者のペット飼育支援医師ネットワーク(略称VESENA(ベセナ)」を設立されました。主な活動内容は、動物病院に勤務する動物看護士が、ペットを飼う高齢者などのお宅を訪れ、ペットの爪切りや入浴などを行う在宅飼育支援を行います。
時には、飼い主に代わってペットの散歩や通院のほか、獣医師による往診なども行います。獣医療のプロによる、こういった支援は珍しく、ペットの病気の早期発見なども期待されます。
また、高齢になった飼い主がペットを飼えなくなったとき、獣医師の人脈で ”新たな飼い主” を探す活動もされております。ペットの健康状態や性格などを念入りに調べて、相性の良い新しい飼い主を見つけます。
動物病院を訪れる飼い主の中には、「もう一匹増えてもいいですよ!」という人もいるので、同じ地域内で見つかることもあります。
ただし、この法人はほとんどボランティアのため、現在、活動に協力しているのは、関東を中心に約20の動物病院に限られております。往診できない獣医師も多く、全国的な広がりには課題が残ります。今後は、各地の獣医師会との連携を図っていかれるそうです。
動物の ‶命″ をみんなで
3年前に施行された改正動物愛護管理法では、飼い主や動物取引業者に、動物が命を終えるまで面倒を見る「終生飼養」の努力義務が果たせられました。犬猫の殺処分を減らすためのものですが、高齢者でも安心してペットを飼える支援の充実も必要です。
また、一般的には子犬や子猫のほうが大人の犬猫よりかわいいと思われていますが、高齢者は動物の寿命を考えて、最初から大人の犬猫などを飼うという選択肢も大切です。しつけられたペットのほうが飼いやすい、という利点もあります。
最近では、ペットと共に入居できる介護施設や高齢者向け住宅などもあるそうです。もしも飼い主が先に亡くなったとしても、ペットの面倒を最後まで見てくれる施設は、人気なのだそうです。
当法人では、獣医師や動物看護士のほか、活動に賛同してくれるボランティアの方々にも期待されています。高齢者の代わりにペットを散歩してくれるような、地域住民の深い繋がりを目指しているそうです。
ささき・のぶお 1948年、岩手県生まれ。東京大学大学院 農学研究所 畜産獣医学 専攻終了。獣医師。農学博士。日本獣医師会理事長、アジア獣医師外科学会会長などを経て現職。動物看護師統一認定機構長、NPO法人「高齢者のぺと飼育支援獣医師ネットワーク」理事長などを務める。日本小動物外科専門医師協会・名誉設立専門医。